第1章|エゴグラムの再定義
──三層構造モデルと“役の設計図”
01|導入・三層構造モデル
なぜ役作りとエゴグラムを結びつけようと思ったのか
ある役者がシリアスな役を演じ、その直後にコミカルな役を演じた。
台本も、シチュエーションも、キャラクター設定もまったく違う。
それなのに、こちらの胸に残った印象はこうだった。
「さっきと同じ人が、同じように喋っている」
声の高さは変えている。
しゃべり方も、テンションも、本人なりに“役作り”はしている。
それでも、どうしても「同じ人」にしか見えない。
一方で、別の役者はこうだ。
台詞ごとに、まるで違う人間がそこにいるように聞こえる。
同じ人間が演じているのに、「別人」としか思えない俳優。
どの役をやっても「いつものあの人」から抜け出せない俳優。
この差はいったいどこから生まれているのか──。
現場で何十、何百という芝居を見続けていると、この差が「たまたまの出来不出来」ではなく、思考と準備の“構造の違い”から生まれていることが、だんだんと見えてくる。
「どうして、この人は全部同じに見えてしまうんだろう?」
「どうしたら、この人は“別人”を立ち上げられるようになるんだろう?」
これは他人への疑問であると同時に、自分自身への問いでもあった。
声色は変えているのに、なぜか同じ人にしか見えない
キャラクター設定は違うのに、感情の揺れ方がどれも同じ
台詞は覚えているのに、「役が立ち上がっていない」
この「なんとなく全部同じに見えてしまう」現象の正体を、どうにか言語化したかった。
「演じ分けとは、具体的に“何をどう”変えることなのか」
「その違いを、誰にでも再現できる形で渡せないか」
そう考えたとき、最初に頭に浮かんだのは、いわゆる「血液型による性格分類」だった。
A型は几帳面、B型はマイペース、O型はおおらか、AB型は二面性──。
世間話としては便利だし、会話のネタにもなる。
だが、役作りの“設計図”としてはあまりにも粗すぎる。
血液型は4種類しかないのに、どうして何億もの人間を4パターンに押し込めようとするのか。
そもそも科学的な裏づけも心もとない。
エンタメとしては面白くても、演技の再現性を支える道具にはなり得ない。
それでも私はこう思った。
「タイプ分けという発想そのものは、演じ分けの土台になり得るんじゃないか?」
そこから、いわゆる「性格診断」「心理テスト」に興味が移っていく。
雑誌やネットにあるテストは、血液型よりも少し細かく人間を分類し、「あなたは◯◯タイプです」と教えてくれる。
だが、たいていはそこで終わってしまう。
そのタイプが、役作りのどの部分に関係するのか
どのシーンで、どの自我状態が前に出ているのか
その揺らぎが、台詞や行動にどう反映されるのか
こういったことを構造として扱うための“道具”にはなっていなかった。
そこで私は、性格診断の背後にあるメカニズムを辿ることにした。
さまざまな性格分類を見ていく中で、役作りに応用できそうな構造として目に留まったのが、エゴグラムだった。
だったら、俳優・声優は、その元の構造そのものを、役作りのために使えばいい。
そうすれば、感覚だけに頼らず、役作りを論理的・再現可能な形で組み立てることができる。
こうして私は、「エゴグラムを、現場で使える役作りの設計図に翻訳する」という試みを始めた。
心理学の専門家としてではなく、現場で役者と向き合い、芝居を審査し、指導してきた人間としてのアプローチである。