BOOK 02 / PREVIEW

声優の構造的演技論

著者:岡本悠希

第1章|エゴグラムの再定義

──三層構造モデルと“役の設計図”

01|導入・三層構造モデル

なぜ役作りとエゴグラムを結びつけようと思ったのか

ある役者がシリアスな役を演じ、その直後にコミカルな役を演じた。

台本も、シチュエーションも、キャラクター設定もまったく違う。

それなのに、こちらの胸に残った印象はこうだった。

「さっきと同じ人が、同じように喋っている」

声の高さは変えている。

しゃべり方も、テンションも、本人なりに“役作り”はしている。

それでも、どうしても「同じ人」にしか見えない。

一方で、別の役者はこうだ。

台詞ごとに、まるで違う人間がそこにいるように聞こえる。

同じ人間が演じているのに、「別人」としか思えない俳優。

どの役をやっても「いつものあの人」から抜け出せない俳優。

この差はいったいどこから生まれているのか──。

現場で何十、何百という芝居を見続けていると、この差が「たまたまの出来不出来」ではなく、思考と準備の“構造の違い”から生まれていることが、だんだんと見えてくる。

「どうして、この人は全部同じに見えてしまうんだろう?」

「どうしたら、この人は“別人”を立ち上げられるようになるんだろう?」

これは他人への疑問であると同時に、自分自身への問いでもあった。

声色は変えているのに、なぜか同じ人にしか見えない

キャラクター設定は違うのに、感情の揺れ方がどれも同じ

台詞は覚えているのに、「役が立ち上がっていない」

この「なんとなく全部同じに見えてしまう」現象の正体を、どうにか言語化したかった。

「演じ分けとは、具体的に“何をどう”変えることなのか」

「その違いを、誰にでも再現できる形で渡せないか」

そう考えたとき、最初に頭に浮かんだのは、いわゆる「血液型による性格分類」だった。

A型は几帳面、B型はマイペース、O型はおおらか、AB型は二面性──。

世間話としては便利だし、会話のネタにもなる。

だが、役作りの“設計図”としてはあまりにも粗すぎる。

血液型は4種類しかないのに、どうして何億もの人間を4パターンに押し込めようとするのか。

そもそも科学的な裏づけも心もとない。

エンタメとしては面白くても、演技の再現性を支える道具にはなり得ない。

それでも私はこう思った。

「タイプ分けという発想そのものは、演じ分けの土台になり得るんじゃないか?」

そこから、いわゆる「性格診断」「心理テスト」に興味が移っていく。

雑誌やネットにあるテストは、血液型よりも少し細かく人間を分類し、「あなたは◯◯タイプです」と教えてくれる。

だが、たいていはそこで終わってしまう。

そのタイプが、役作りのどの部分に関係するのか

どのシーンで、どの自我状態が前に出ているのか

その揺らぎが、台詞や行動にどう反映されるのか

こういったことを構造として扱うための“道具”にはなっていなかった。

そこで私は、性格診断の背後にあるメカニズムを辿ることにした。

さまざまな性格分類を見ていく中で、役作りに応用できそうな構造として目に留まったのが、エゴグラムだった。

だったら、俳優・声優は、その元の構造そのものを、役作りのために使えばいい。

そうすれば、感覚だけに頼らず、役作りを論理的・再現可能な形で組み立てることができる。

こうして私は、「エゴグラムを、現場で使える役作りの設計図に翻訳する」という試みを始めた。

心理学の専門家としてではなく、現場で役者と向き合い、芝居を審査し、指導してきた人間としてのアプローチである。